葛西臨海水族園
東京都の水族館は、1882年に開館した日本最初の水族館である上野動物園内の「観魚室(うおのぞき)」であった。それが形を変えて上野水族館として引き継がれ1964年に開館しました。そして、上野動物園100周年記念事業として東京都が葛西臨海公園に水族館を計画し、1989年に葛西臨海水族園としてオープンしました。
葛西臨海水族園の特徴
「水族園」という名称は、「建物としての水族館という概念すら捨てて考えようという姿勢を示すためにつくられた言葉」であり、マグロが回遊する巨大な水槽をはじめ画期的な展示方法を導入し、従来の水族館の枠に収まらない新しい「水族園」を創出しました。
日本有数の規模を誇る水族館としてオープンし、初年度年間入場者数355万人は、当時の日本記録240万人(須磨海浜水族園)を塗り替えてしまうほどの人気を呼びました。
谷口建築の特徴
ガラスやアルミといった近代的な材料を使い、シンプルな造形の中に圧倒的な美しさと深淵さを表現。谷口吉生氏は美術館を中心に手掛け、その美しさから美術館の巨匠とも言われています。
葛西臨海水族園では、水族館の中で旅行するような動線になっており、進んでいく度に様々なシーンが展開されています。劇場のように水槽を鑑賞できるシーンや水槽を上部から見渡せる空間など、異なる雰囲気の空間が楽しめます。
外観・アプローチ・館内
建物自体は高さを抑えられており、周囲の森林と同調するデザインが魅力となっています。
ゲートを潜り階段を登ると現れるのは巨大なガラスドーム。空に向かって開かれた開放感のあるデザインは、建物全体の中心的な存在として視覚的なインパクトを与えています。また、足元には巨大な水盤があり、エッジは消され東京湾と一体となった空間となっており、建物が海につながるような感覚を生み出しています。
地上3階建ての建物のエントランスを3階に取ることで、ドームを中心に円状に展開する水盤が、ドームをより一層幻想的に演出されています。
ドームは水族館の屋根部分で、東京湾の水面より10m以上高くなった場所にあえて水盤をつくっています。これによって本来見えるはずの東京湾の海岸線は見えなくなっており、水盤と東京湾があたかも続いているような感覚が生まれるという仕掛けとなっています。また、エントランスホールから階下に降りるエスカレーターは水面に潜る感覚を演出。そして水盤の噴水は波のようにも感じることができます。ガラスドームやこれらの演出により、水族館に入る前の高揚感は最高潮となります。
波のようにも見える噴水
2階と3階のMAP
ドーナッツ型の水槽の中を群泳するクロマグロ
1、2階の展示室空間と管理諸施設は直径100mの円形平面の中に収められ、マグロが回遊する巨大水槽や世界各地の水生生物を展示する水槽群、「渚の生物」を集めた半屋外の疑似自然化された水槽など、変化に富む展示空間が展開されています。
このような幾何学に基づいた建築の構成、展示、収容のための機能的な建築計画や印象的なアプローチの構成、周辺環境との結び付きは、これまでの谷口建築の設計手法が盛り込まれています。
葛西臨海水族園の想い
谷口吉生氏は、この建築の設計に際して「建築、造園、展示から家具、サイン標識にわたるまですべて意匠統一し、総合的に整備された環境とすることを決心した」と述べている通り、細部に至るまで拘った水族館となっています。
今の水族館になるまで、かなり試行錯誤したと言われています。当初は東京湾から直接敷地内に海水を引き込み、そこに建築が張り出すイメージで設計されました。しかし、海水を引き込むことが困難であったことから、代替案としてイルカプールとして人工の水盤をつくる案となりました。
しかし、当時の鈴木東京都知事より「これはどこが日本一なんだ」と指摘されたことより、運営側はイルカプールを急遽変更し、世界で初めてのマグロ水槽を導入することとなったのです。
この都知事の発言が名建築飛躍の原動力となり、非日常的な空間で唯一無二の価値を持つ水族館が誕生することとなったのです。